東京オリンピック・パラリンピック中止の経済損失は、GDPの0.3%程度

東京オリンピックの開催まで2カ月を切ってきました。
しかし、新型コロナ変異株ウイルスを中心とした感染者数は高止まり状態で、28日には菅義偉首相が、東京都や大阪府など9都道府県に出されている緊急事態宣言を6月20日まで延長・再延長することを発表していて、開催には激しい逆風が吹きつけています。

国内でも、読売新聞の世論調査(5/7~9)で中止が59%となったほか、朝日新聞の世論調査(5/15~16)では43%、毎日新聞の世論調査(5/22)でも40%と、中止を求める声は高まっています。また海外メディアからも厳しい意見が相次いでいます。

一方で、開催するメリットとして経済効果を指摘する声があります。
財務事務次官や日本銀行副総裁を歴任した東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の武藤敏郎事務総長も、「日本経済全体のことを考えたら、五輪を開催するほうがはるかに経済効果がある」と述べています。

オリンピックのような大規模なイベントが開催される場合、しばしば開催に関しての経済効果が語られます。施設の建設とそこから波及する効果、チケット収入や関連商品の売り上げ、観客が支出する宿泊や飲食などの収入、そして開催後のレガシーといったものまで含め、巨額の経済効果が試算されます。こうした効果を背景に、オリンピックを開催すると景気が上向くということがこれまでも言われてきました。

そんななか、逆に東京オリンピック・パラリンピックを中止した場合の経済的な損失を試算したレポートが2本発表されていましたのでご紹介します。

「東京五輪中止を仮定した場合の経済的機会損失はどの程度か」(ソニーフィナンシャルホールディングス)
東京オリンピック・パラリンピック中止の経済損失1兆8千億円、無観客開催では損失1,470億円」(野村総合研究所)

今回の東京オリンピック・パラリンピックの場合も、当初の試算(2017年)で、東京都の需要増加額を、施設整備費や運営費など直接的な効果として2兆円弱、経済活性化やまちづくり、ボランティア意識の高まりなどレガシー効果として12兆円余りとしていました。

どちらのレポートでも、この試算をベースに、このうち新国立競技場などの整備はすでに2019年までに完了してるため、この費用3500億円を除外し、かつ新型コロナの感染対策費用を加えた額を、開催にあたっての直接効果(需要増加額)としています。
その額は、ソニーのレポートでは約1.9兆円、野村のレポートでは約1.8兆円となっています。

野村総合研究所が試算した東京オリンピック・パラリンピックの経済効果(国内観客完全受け入れのケース)

どちらのレポートでも、この額は2020年の名目GDP(539兆円)の0.3%程度であることから、この分の需要がなくなることは、経済の潜在成長率が0~0.5%程度しかない日本にとって軽微とはいえないが、だからといって景気が大きく落ち込んだり、今後の景気の先行きを左右するほどの影響はないと言い切っています。

野村のレポートでは、それよりもむしろ、緊急事態宣言に伴う経済的損失の方がずっと大きく、大会を開催したことにより感染が拡大し緊急事態宣言が出される事態になるくらいなら、中止も含め慎重に判断すべきと述べられています。

ソニーのレポートでは、オリンピック・パラリンピックが開催された場合は、他の消費が削られるマイナスの効果もあることを示し、試算額が経済効果の最大値であるとしています。
そして、ワクチンの接種が始まったことはプラス材料としながらも、感染収束のめどが完全に絶たない中で開催されることにより、感染が長期化してしまうことが一番のマイナスと結論付けています。

菅首相はじめ丸川珠代五輪担当相、IOCのトーマス・バッハ会長や幹部など関係者の言葉を聞いていると、意味不明の精神論など、(当然かもしれませんが)開催ありきの前のめり発言ばかりのように感じられます。

おカネの話も重要だとは思いますが、明確な説明と冷静・慎重な判断をしてほしいと思います。