日本人が資産運用に消極的なのは、株式市場に対するトラウマが理由⁉

MediamodifierによるPixabayからの画像

日本では、個人の金融資産の半分以上が現預金で占められ、株式の比率はわずか1割程度しかなく、株式や投資信託の比率が高いアメリカとは大きな違いがあると言われてきました。

そのため「貯蓄から投資へ」という大きな方針が掲げられ、これまで、さまざまな施策が講じられてきましたが、その構図はほとんど変わっていません。

なぜ、日本では株式投資が進まないのでしょうか。

その理由として、日本人は堅実でリスクを好まない、投資に関する知識が不足している、などといった理由が語られてきました。

これに関して、岡三証券が「株式市場に関するトラウマ(心の傷)」があるからだとする興味深いレポートを発表していましたのでご紹介します。

①⽇本ではなぜ資産運⽤にトラウマが⽣じたのか−バブル崩壊後「雪の時代」を変えるのは誰か(2021年5月25日)
②「資産運⽤トラウママップ」本邦初登場−若者はなぜ資産運⽤に前向きになるのか(2021年5月26日)
③「資産運⽤トラウママップ」その2、⽶国にトラウマはない−図を⾒れば⽶国で資産運⽤が進展する理由がよくわかる(2021年5月27日)

資産運用トラウママップ

下の図は、岡三証券が考案した日本の株式市場の「資産運用トラウママップ」です。

図の縦軸が投資開始年、横軸が投資期間を表しています。
表示されている数字は、毎月、日経平均株価に1万円を投資したときの利回り(複利・年率)を表しています。
オレンジはプラスの利回り、青はマイナスの利回りを示しています。

さて、トラウマとはどういうことでしょうか。

マップの上のところでは、利回りがマイナスである青い表示が目立っています。これはバブル崩壊とその後に大手金融機関の破綻が相次いだ金融危機、そしてITバブル崩壊と、90年代を通して株価が長期低迷していた時期を表しています。
この青い部分をトラウマと定義しています。

私は1991年に大学を卒業し、社会人となりました。
その時に投資を始めたとすると、このマップでは、最初の4年間はずっとマイナスです。5年目たってようやく+0.5%とプラスになりましたが、その後はまたずっとマイナスが続きます。それでもめげずに、今年2021年まで30年間ずっと投資を続けていれば、年率でプラス2.2%のパフォーマンスになっている計算になります。

しかし、投資を始めて15年間もマイナスが続けば、心が折れて、もう株式投資はだめだよ、信用できない、やらないということにもなってきますね。確かにトラウマです。

レポートでは、この推移を世代ごとに分類しています。
バブル崩壊を経験した50代や、その後の就職氷河期世代である40代は、多かれ少なかれトラウマを負っているのに対し、2003年以降に社会人となった30代より下の世代では、景気動向が改善したことや、NISAやiDeCoなどの投資を促進する制度整備が進んだこともあって、トラウマはほとんどないか、あっても限定的で、この両世代の間にはギャップがあると指摘しています。

③のレポートでは、同じトラウママップのアメリカバージョンも紹介されています。

アメリカのトラウママップは、日本のマップと違って、青い部分がほとんどありません。
株価は長期的に上昇を続けてきているため、どの世代でも株式投資からリターンを得ていることを示しています。
1年や2年、株価が下がったとしても、長い目で見ればまた復活して上昇する、という姿になっていますので、ほとんどトラウマはありません。

実は、日本の場合も、半分以上がトラウマの期間だった40代以上であっても、現在まで投資を継続していれば、運用成績はプラスになっています。そして、オレンジ色の濃淡はありますが、マップの右側に行くほど、つまり投資期間が長くなればなるほど、利回りの水準のブレは小さくなっています。

要するに、トラウマとなるマイナスの期間がかなりあったとしても、投資を続けていれば報われるということです。
その「続ける」という方向に向かわせるには、官民が一体となって「長期投資に対する信認を醸成させることが必要」と指摘しています。

超高齢化が進んでいる日本では、老後のための資産をいかに形成するかが重要になってきています。
株式投資には苦い思い出がある方も少なくないと思いますが、NISAやiDeCoなどの制度もフル活用して、長期的な視点で資産形成に取り組んでいただきたいと思います。